「同一労働同一賃金の行方」〜第4回働き方改革実現会議より〜
- 2016.11.30 Wednesday
- 12:49
政府は非正規雇用の待遇改善の一環として、「同一労働同一賃金」の法整備を推進しています。
その議論の場である、働き方改革実現会議の第4回会合が、11月29日に首相官邸で開催されました。
具体的な賃金格差を示すガイドラインを年内には策定し、関係法令(労働契約法・パートタイム労働法・労働者派遣法)の改正案を早ければ来年通常国会に提出する予定です。
昨日の会議では、賃金のみならず、福利厚生や教育訓練なども広く対象とすべきという意見が大勢を占めていたようです。
その中で、やはり気になるのは「賃金」ですね。
賃金格差の具体的な例として、同会議のメンバーである東京大学の水町教授の提出資料を紹介します。
ガイドラインの内容を考えるうえで、大いに参考になるのではないでしょうか。
以下、水町教授の資料より抜粋。
基本給について
- 基本給については、職務に応じて支払うもの(職務給)、勤続に応じて支払うもの(勤続給)、職業能力に応じて支払うもの(職能給)など、その趣旨・性格は様々である。それぞれの趣旨・性格に照らして、実態に違いがなければ同一の、違いがあればその違いに応じた支給をすることが必要ではないか。
- 例えば、職業能力向上のためのキャリアコースを選択した結果、より高い職業能力を習得した正規労働者にはその職業能力に応じた基本給を支給するが、そのキャリアコースを選択しなかった非正規労働者には同一の基本給ではなく職業能力の違いに応じた基本給を支給することは、不合理とは言えないのではないか。
昇給について
- 勤続による職業能力の向上に応じた昇給については、勤続によって職業能力が正規労働者と同様に向上した非正規労働者には同一の昇給を行い、職業能力の向上に違いがある場合にはその違いに応じた昇給を行うことが必要ではないか。
賞与について
- 会社の業績等に応じて支給される賞与については、正規労働者と同様に会社の業績等に貢献している非正規労働者にも、その貢献に応じて支給することが必要ではないか。
その他の諸手当について
- その他の諸手当(役職手当、特殊作業手当、時間外・休日・深夜手当、精勤手当、住宅手当、地域手当、通勤手当、出張旅費、食事手当など)については、それぞれの趣旨・性格が同様に及ぶ(それぞれの支給要件を満たす)非正規労働者には、基本的に正規労働者と同一の手当を支給することが必要ではないか。
ちなみに、福利厚生や教育訓練については、以下のように述べています。
福利厚生
- 福利厚生(社員食堂、休憩室、更衣室、安全管理、健康診断、病気休職、慶弔休暇など)については、これらの制度の趣旨・性格に照らして同様の状況に置かれている非正規労働者には、基本的に正規労働者と同一の施設・制度の利用を認めることが必要ではないか。
教育訓練
- 教育訓練については、正規労働者と職務内容が同一の非正規労働者には同一の教育訓練、職務内容が違う非正規労働者にはその違いに応じた教育訓練を行うことが必要ではないか。
以上のように、同一の職務であれば、一律に同一の賃金を支払うというわけではなく、職業能力の違いに基づいて一定の差をつけることはある程度の合理性があると認められそうです。
課題は、上記の待遇格差について、企業側に説明責任を求めるかどうか。
この点は、日本商工会議所の三村会頭をはじめとする経済界が難色を示しており、今後も政府と経済界で調整が続く見込みです。
前述のように、年内にはガイドラインが示される予定です。
「同一労働同一賃金」の行方は、今後も目が離せませんね。
第4回働き方改革実現会議の詳細は、下記のURLよりご覧いただけます。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/hatarakikata/dai4/gijisidai.html
Q.試用期間の長さは自由に決められる?
- 2016.11.29 Tuesday
- 09:41
A.法律上の制限はありません。最長で1年間が認められた判例があります。
試用期間の長さについて、具体的な長さに関する法令上の制限はありません。
したがって、就業規則や雇用契約書等により自由に設定することができます。
ただし、必ず期間を定める必要があります。
期間の定めのない「会社において当社社員としてふさわしいと認めたときに本採用とする」というような定めは、公序良俗に反するものとして民法によって無効とされます。
また、期間を定めた場合でも、あまりにも長期間にわたる試用期間は、従業員としての地位の不安的な期間であるので、労働者に不当な不利益を強いることになるため、公序良俗違反として無効になる可能性が高いです。
では、どのくらいの長さまで認められるのか。
過去の判例では、2年にも及ぶ見習社員及び試用社員としての期間は無効であると示しています。
「試用期間中の労働者は不安定な地位に置かれるものであるから、労働者の労働能力や勤務態度等についての価値判断を行うのに必要な合理的範囲を超えた長期の試用期間の定めは公序良俗に反し、その限りにおいて無効であると解するのが相当である」(昭和59.3.13名古屋地裁判決 ブラザー工業事件)。
一方で、1年間の期間を定めた試用期間を認める判決も出ています(昭和45.7.10大阪高裁判決 大阪読売新聞社事件)。
さすがに1年間を超える試用期間を定めた場合は、「期間が長すぎる」と判断される可能性が高いですね。
一方、1年未満の期間であれば、妥当性が高いと考えられます。
一般的には、3か月〜6か月程度で設定している企業が多いのではないでしょうか。
Q.試用期間終了時の「本採用拒否」は解雇にあたるか?
- 2016.11.28 Monday
- 10:35
A.雇用契約は成立しているので「解雇」にあたります
入社後の一定期間を試用期間に設定している企業も多いかと思います。
試用期間とは、企業側が雇い入れた従業員の業務に対する適格性等を判断する期間であると考えられています。
一般的には、『解約権留保付きの本採用契約』と解されており、条件付きではあるが、本採用契約が成立している状態です。
従いまして、試用期間終了時の「本採用拒否」は、労働契約の解約に該当し、解雇であるとみなされます。
解雇である以上、客観的・合理的な理由が求められますが、本採用後の従業員の解雇の場合よりも、広い範囲の解雇事由が認められています。
判例でも、「右の留保解約権に基づく解雇は、これを通常の解雇と全く同一に論ずることはできず、前者については、後者の場合よりも広い範囲における解雇の自由が認められてしかるべきものといわなければならない」(昭和48.12.12最高裁判決 三菱樹脂事件)と、判示されています。
では、この試用期間中の解雇が、どのような場合に行使できるか?
最高裁判決では、以下のように示されています。
「企業者が、採用決定後における調査の結果により、または試用中の勤務状態等により、当初知ることができず、また知ることが期待できないような事実を知るに至った場合において、そのような事実に照らしその者を引き続き当該企業に雇用しておくのが適当でないと判断することが、上記解約権留保の趣旨、目的に徴して、客観的に相当であると認められる場合には、さきに留保した解約権を行使することができる。」
要するに、試用期間中の、従業員の勤務態度や職務に対する適性能力に関して、採用前の段階では知りえなかった事実が判明し、継続して雇用することが適当でないと判断する場合ということです。
なお、「本採用拒否」等の通知や意思表示は、必ず行って下さい。
そのような意思表示を行わないまま、試用期間が終了した場合は、即ち本採用したとみなされ解雇に関していわゆる正社員と同じ扱いとなります。
また、忘れてならないことは、試用期間中の解雇であっても、入社し使用従属関係に入った後で14日を超えて使用する至った場合には、労基法第20条の適用を受けて、30日前に予告するか、30日分の平均賃金を解雇予告手当として支払う義務が発生します。
新規学卒者の初任給、3年連続の増加〜平成28年「賃金構造基本統計調査」より〜
- 2016.11.25 Friday
- 10:06
厚生労働省では、このほど、平成28年「賃金構造基本統計調査(初任給)」の結果を取りまとめました。
10人以上の常用労働者を雇用する民間の事業所のうち、新規学卒者を採用した15,767事業所を対象に、初任給が確定している15,308事業所について集計したものです。
集計結果をみると、全ての学歴で男女計の初任給は、3年連続で増加しています。
以下、調査結果のポイントをまとめると。
学歴別にみた初任給
〇男女の初任給は、全ての学歴で前年を上回り、大学卒、高専・短大卒、高校卒においては過去最高となった。
金額 | 前年比 | |
大学院修士課程修了 | 231,400円 | 1.3%増 |
大学卒 | 203,400円 | 0.7%増 |
高専・短大卒 | 176,900円 | 0.7%増 |
高校卒 | 161,300円 | 0.2%増 |
〇大学卒及び高校卒の初任給は、男女とも前年を上回る
大学卒 | 金額 | 前年比 |
男性 | 205,900円 | 0.7%増 |
女性 | 200,000円 | 0.6%増 |
高校卒 | 金額 | 前年比 |
男性 | 163,500円 | 0.1%増 |
女性 | 157,200円 | 0.6%増 |
売り手市場が続く就職戦線や、ベア改定・最低賃金の上昇等の賃金改善を要因として、新卒者の初任給も上昇傾向のようですね。
調査結果の詳細は、下記のサイトで確認できます。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/16/index.html
「社会保険料の負担増のために働き方を変えますか?」〜エン派遣意識調査より〜
- 2016.11.24 Thursday
- 15:26
平成28年10月1日より、健康保険・厚生年金保険の加入対象従業員が広がりました。
(法改正の詳細は、下記の代表ブログ記事をご覧ください)
平成28年10月から社会保険の加入対象が拡大されました
http://sr-komaya.jugem.jp/?eid=3
新たに社会保険加入の対象となった方は、どのような働き方を選択したのでしょうか。
エンジャパン株式会社が運営する、派遣のお仕事まとめサイト『エン派遣』では、サイトを利用している20代以上の女性でこれまで社会保険に加入していない人を対象に「社会保険に関わる法改正」についてのアンケート調査を行いました。
調査結果からは、新たに社会保険加入の対象となった人の、働き方についての動向を伺うことができます。
調査結果の概要は、下記の通りです。
1.社会保険に関わる法改正の詳細を知っていた方は23%
- 今回の法改正を知っているかについては「詳細を知っていた」と回答した人は23%でした。
- 「なんとなく知っていた」(45%)、「知らなかった」(33%)が大半を占めており、法改正の周知が進んでいないと言えそうです。
- また、年代別でみると20代では54%が「知らなかった」と回答しています。
2.新たに社会保険の対象となった人の51%が「保険料の負担増のため働き方を変更した」と回答
- 法改正への対応を聞いたところ、18%の人が「これまで社会保険に加入していなかったが、新たに社会保険の対象になり加入する」と回答しました。
- また、新たに加入すると回答した人に、法改正を受けて働き方を変えるか聞いたところ、半数以上が「保険料の負担が増すので労働時間を増やすなど収入を増やすよう働き方を変えた」(51%)と回答しました。
- 一方、31%の人が「新たに加入対象になったが、働き方を変えない」と回答。
- 特に、20代では36%、30代では56%と、この選択肢の割合が高くなっており、手取り収入が減ったとしても、家事や子育ての両立を考えて労働時間を増やすことに抵抗感があるものと考えられます。
3.加入対象から外れるために、時間や収入を減らすよう働き方を変えた人は24%
- これまでも改正後も社会保険に加入しない働き方を選択する、と回答した人に「法改正を受けて働き方を変えましたか」と聞いたところ、24%の人が「新たな加入対象から外れるために、収入を減らすよう働き方を変えた」と回答しました。
- 今回の法改正によって、4人に1人が従来よりも労働時間や収入を抑制せざるを得ない状況になっていることがわかります。
社会保険の適用範囲の拡大は、平成31年9月までに、さらに検討を進めることが法律で決められています。
社会保障の充実や、社会保障関連の財政健全化のために、加入対象の拡大が推進されることが予想されます。
どのような形にせよ、働く人が多様な選択肢をもって仕事ができる環境づくりが重要ですね。
調査結果の詳細は、下記のサイトで確認できます。
http://corp.en-japan.com/newsrelease/2016/3415.html